きょう一日だけ ごきげんに生きよう

「こんなになるまで放っておいて……」

かかりつけの医者は、気の毒そうに私の顔を見た。左首はパンパンだった。紹介された大学病院で検査をし「血液のガン」と診断された。

けれども私は運が良かった。次男が高校受験を控えていたため、しょげている暇がなかったからだ。家族で合格祝いをした数日後、抗がん剤治療を受けるために入院した。

主人と3人の子ども達、両親に妹夫婦、私には家族がいた。「しっかりしよう」、自分自身に言い聞かせた。ガンを告知されると、多くの人はガックリしてしまうと聞いている。それなら私は「機嫌のいいガン患者」を目指してみよう。

入院中の食事は、決しておいしいものではなかったが、「栄養のバランスが良くて幸せ」「洗い物をしなくていいなんて嬉しい」と考えたら、ありがたくいただくことができた。

しばらくすると、さまざまな副作用に悩まされた。1ヵ月ほどで退院したものの、これから最低半年間は、定期的に通院し、抗がん剤を受けなくてはならない。あとどれくらい副作用が続くのだろうか。治療すれば本当にガンは治るのだろうか。たとえ治ったとしても再発することはないのだろうか。先のことを考えれば考えるほど、不安がどんどん湧き上がってくる。早くも「機嫌のいいガン患者」の目標は崩れそうになっていた。

ある日、ふと思った。「きょう1日だけ」ならどうだろう。きょう1日だけなら、機嫌よく過ごせるのではないだろうか。私は、機嫌よく過ごせそうなことを探し、一つひとつ試してみることにした。

散歩、読書、投稿……絵手紙も始めてみた。初めは直線を引くだけでも難しかったが、続けているうちに楽しくなってきた。友達の誕生日に贈り、喜んでもらえたら「来年も受け取ってね」とお礼を言った。来年の誕生日にも生きていることを願いひそかに希望をつないだ。

「きょう一日だけごきげんに生きよう」。この言葉を支えに日々丁寧に過ごし、8年が経とうとしています。