ばあちゃん、カツラぼうしがとんじゃうよ

健康には自信があった私が、なにげなく触った胸にしこりを見つけ、検査した結果は乳がんでした。八年前のことです。医師に初期なので手術で治ると言われました。さっさと手術して、また今までの生活に戻ろうと考えていました。ところが術後、再発防止のための抗がん剤治療をすすめられた時はショックでした。最初の治療から十日後に脱毛が始まり、覚悟はしていたものの、まとまって毛が抜けて行く姿に落ち込みました。そんな私を嫁いでいる娘が心配して、孫を連れて来てくれました。孫には「いつも元気なばあちゃん」でいたかったので、病気のことは内緒にしておきました。三才の男孫は、なんでも良く気がつくところがあるので、私はできるだけ笑顔をつくり、毛のない頭にニット帽をかぶって、顔色の悪さは化粧でカバーしました。孫は何も気づいた様子も見せず、いつも通りに私と遊んでいました。娘もその様子を、「何も言わないのは変だね。」と言っていました。ある日、孫が「ばあちゃん、公園へ行こう。」と言うので、こっそり外出用のカツラをつけ、さらに帽子をかぶって近くの公園へ連れて行きました。薬の副作用で体調は良くなかったのだけど、孫のためだったら元気が出て、病気のことも一時忘れることができました。大きなスベリ台で孫を抱えて滑ろうとした時のことでした。風が強く吹き、私の帽子が飛ばされそうになりました。その時でした。孫がとっさに、「ばあちゃん、カツラぼうしがとんじゃうよ!」と言ったのでした。うまく隠していたつもりが、孫はちゃんとわかっていたのでした。カツラと帽子が飛ばされたらたいへんなことになると心配したのでしょう。それまで何も聞かなかったのは、孫のやさしさだったのでしょう。それにしても「カツラ帽子」とはなんてかわいいネーミング。これからも孫の成長をずっと見ていたいし、成人してお嫁さんをもらうまで、長生きしたいと夢はどんどん広がって行きます。