歯型で遺した孫のがんばり

私のもとに孫が誕生したのは今から二十年前のこと。初孫とあって、親戚はみな大喜びをして、頬ずりをしたり、抱っこしたりして、そのモテぶりは相当なものでした。

その宝物のような孫に病気が見つかったのは、生後3ヶ月の時のことです。小児がんでした。

病気が見つかってからはうちに遊びに来ることもなくなり、孫の入院生活が始まりました。腫瘍が見つかった腎臓の切除手術から始まり、抗がん剤治療を繰り返す過酷な日々。それでも孫は、お見舞いに来た私たちにいつでもニコニコとかわいらしい笑顔を見せてくれました。そんな孫のために私ができることと言ったら、子守唄の代わりに「痛いの、痛いの、飛んでいけ!」と、孫の頭をなでてやることくらいでした。

そんなある日のこと。抗がん剤治療の副作用でハア、ハアと苦しそうな息をしていたかと思うと、突然、私の目の前で歯を食いしばりはじめたのです。その瞬間、私はとっさに自分の左手を孫の口の中に突っ込んでいました。何年も前に看護師をしている友人から「引きつけをおこしたときは、舌を切らないように気をつけないといけないのよ。」と聞いたのを思い出したのかもしれません。

孫が落ち着いたから左手を見てみると、生えたてのかわいらしい二本の歯の跡が私の左手に深く刻まれていました。赤くにじんだ左手を見ながら「こんなに苦しいんだね。」と思うと涙が止まりませんでした。

現在72歳になる私の左手には、今でもはっきりと孫の頑張った跡が遺っています。そして、その歯型が私にいつでも「生きることの大切さ」を教えてくれます。500日という短い人生を懸命に生き、たくさんの想い出を遺してくれた孫が、私にとって誇りです。